先日、兄が昔働いていた街をブラッと訪れてみました。かなり昔です。ホテル関係の仕事で、最初は渋谷、その後はチェーン店を二三移動しました。父とやっていた事業が冴えないまま終えて失意でいたのですが、働けるところでとにかく働こうと手っ取り早く雇ってくれるところへ就職したのです。ではあったのですが、意外に兄には合っていたようで、仕事はそんなに辛くないと言っていて、割と長く続きました。ある時経営者が変わって従業員との間でスッタモンダがあって兄は解雇されたのですが、とにかくその間は自宅で弁当を作って水筒をぶらさげて通っていました。
渋谷までは遠いので朝出るのが早く、目覚ましで起きてひとりで朝食を摂って鍵をかけて出て行きました。母も私もまだ寝ていて、私は何故か、その鍵がかかるカチッという音で目覚めることが多かったのです。
父はその時すでに亡く、母は遺族年金を受け取っていましたが、住宅を購入したばかりで会社とのトラブルで私も解雇された状態でして、なんとかネット上から仕事が取れないかと暗中模索していた時代です。一家はゼロからの出発みたいなもので、ほんとに苦しい時代でした。とにかく全員で間に合う仕事を何でもやって合わせたお金で倹しく生きる。それだけを考えていました。
兄が着る冬物のジャンパーなどは私のものと共用で小柄な兄が着るとちょっと滑稽な感じでした。冬はまだ星が出ている時に出ていくので、私もサラリーマンだったころはその経験がありますが、しんどい時代だったなと思います。金銭的に余裕があれば全然違うでしょうが、とにかくそんな状態ではありませんでした。
渋谷の兄の職場は、兄が忘れた何らかの書類を届けに一度訪れたことがあるのですが、転勤した場所へは行ったことがありませんでした。詳しく言いませんが埼玉のある街です。駅からはバスに乗らねばなりません。私は散歩ですのでちょっとばかり時間をかけて歩いて、この辺のどこかで働いていたのだなと思いつつ、もう20年近くが経っているので、街の雰囲気を眺めるだけでした。
兄はその後職を変えて、そこでもしばらく続きました。私からすると少々困った兄ではあったのですが、今思い返すとそれなりに頑張ってくれていたのだなと思います。もうちょっと小遣いを渡しても良かった…。
朝出て行くときの鍵をかける音。そのカチッという音が今も悲し気に耳に残っています。 そんな夢を見て目覚めることもありました。
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